《ブルックナーの楽曲とカラヤンの演奏》交響曲    (最終改訂:2010.7.5.)
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Anton Bruckners Symphonien / Herbert von Karajan


交響曲第1番交響曲第1番のディスク
交響曲第2番 交響曲第3番 交響曲第4番 交響曲第5番 交響曲第6番
交響曲第7番 交響曲第8番 交響曲第9番 交響曲第0番 交響曲第00番



ブルックナーの交響曲の稿、版、作曲経緯に関しては以下の資料を参考にしました。

(1)金子建志著『こだわり派のための名曲徹底分析 ブルックナーの交響曲』 音楽之友社、1994年刊
(2)『作曲家別 名曲解説ライヴラリー5 ブルックナー』 音楽之友社、1993年刊
(3)Bruckner Symphony Versions (David Griegel)
(4)The Several Versions of Bruckner's Symphonies (a synopsis) (Jose Oscar Marques)
(5)Anton Bruckner Symphony Versions Discography (John F. Berky)
(6)ブルックナーの壁「版の問題」(URL:http://f20.aaa.livedoor.jp/~brukabe/edition.html)
(7)The Bruckner Journal
コンテンツに"ANTON BRUCKNERS WORKS Published scores of the various versions"があります。
(8)ANTON BRUCKNER (1824 -1896) CRITICAL COMPLETE EDITION
(9)Anton Bruckner Symphony Versions Discography


交響曲第1番 A.Bruckner : Symphonie Nr.1 C-moll

 交響曲第1番は1865年1月に作曲を始め、翌1866年4月14日に完成しました。楽章ごとに経緯を見ていくと、第1楽章は1865年5月14日に書き終えられています。第2楽章は1866年1月27日から4月12日までかかり、その後補筆され4月14日に完成しました。第3楽章はトリオ部分は1865年3月10日に終了、スケルツォ部分は1865年5月25日にまとめられましたが、変更の手が加えられ1866年1月23日に完成しました。第4楽章は1865年1月から作曲され1月26日に終了しました。(これがリンツ稿です。)
 この後、1868年、1877年、1884年に微修正が加えられています。(初演は1868年)

 1890年から1891年にかけて改訂が加えられました(ウィーン稿)。




  リンツ稿:Linzer Fassung 1866(リンツ稿1866年版)

        Ausgabe:Wolfgang Grandjean,1995 (Nowak zu I/1)



  リンツ稿とウィーン稿:Linzer Fassung und Vienna Fassung

        Ausgabe:Robert Haas,1935 (Haas)



  改訂リンツ稿:Revised Linzer Fassung 1877(リンツ稿1877年版)

        Ausgabe:Leopold Nowak,1953 (Nowak I/1)



 ウィーン稿:Wiener Fassung 1890/91(ウィーン稿1890/91年版)

        Ausgabe:Guenter Brosche,1980 (Nowak I/2)








交響曲第1番の稿/版

稿 (Version) 版 (Edition) I II III IV
1st version[Linz](1865-6) Wolfgang Grandjean Nowak zu I/1 (1995) - Adagio(Ursprueglich Fassung)
fragment
Scherzo (altere Komposition)
fragment
-
Unrevised [Linz]version(1866) prepared by William Carragan(unpublished,1998)
from the critical report of Robert Haas(1935)
Allegro Adagio Scherzo: Schnell Finale: Bewegt, feurig
Mixed form of [Linz] and [Vienna] versions Haas (1935) Allegro molto moderato Adagio Scherzo(Vivace) - Trio Finale. Allegro con fuoco
Revised [Linz] version (1877) Nowak I/1 (1953) Allegro molto moderato Adagio Scherzo(Vivace) - Trio Finale. Allegro con fuoco
2nd version [Vienna] (1890-91)
incl. later posthumous editorial changes
Nowak I/2 (1890-91) Allegro molto moderato Adagio Schezo(Vivace) - Trio Finale. Allegro con fuoco


交響曲第1番のディスク
レーベル
ソフト
演奏 番号 録音年月日 稿/版 タイミング ジャケット画像
DG, CD カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
415 985-2 1979.9.
フィルハーモニー、ベルリン
リンツ稿
(1866 Linzer Fassung,Leopold Nowak)

I:12'52"
II:14'17"
III:8'54"
IV:14'27"

DG, CD クラウディオ・アバド指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
453 415-2 1996.1.
ムジークフェライン、ウィーン
(ライヴ)
リンツ稿
(1866 Linzer Fassung,Leopold Nowak)

I: 12'16
II: 13'45"
III: 8'40"
IV: 13'46"

LONDON, CD リッカルド・シャイー指揮
ベルリン放送交響楽団
F32L-20195
(421 091-2)
1987.2.
イエス・キリスト教会、ベルリン
ウィーン稿
(1890/91 Wiener Fassung,Guenter Brosche)

I: 13'13"
II: 13'45"
III: 9'11"
IV: 18'05"

Naxos, CD ゲオルク・ティントナー指揮
ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団
8.554430 1998.8.31.,9.1.
ヘンリー・ウッド・ホール、スコットランド、グラスゴー
ハースのクリティカル・レポート(1935)をもとにキャラガンが用意したリンツ旧版による演奏
(1866 Unrevised Linz version, prepared by William Caragan)

I: 14'33"
II: 15'19"
III: 9'05"
IV: 15'48"

Berlin Classics, CD ヴァーツラフ・ノイマン指揮
ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
0094662BC 1965.12.13.-14.
ヘイランド教会、ライプツィッヒ
Linzer Fassung 1865/66

I: 13'54"
II: 12'54"
III: 8'59"
IV: 15'35"




交響曲第2番 A.Bruckner : Symphonie Nr.2 C-moll


1872 Version:Fisrt concept version
 1871年10月11日にブルックナーは交響曲第2番を作曲し始めました。この日に第1楽章の作曲を始め翌年の1872年7月8日に書き上げられました。第2楽章は1872年7月28日から7月25日まで、第3楽章は7月8日から7月18日まで、第4楽章は7月28日から9月11日までに作曲を完了しまた。
1872年9月11日に完成したものが1872 Versionです。
(1872 Version:Fisrt concept version, Critical Edition by Carragan)

1873 Version:First performance version
 1873年に1回目の改訂を行い、この改訂稿により1873年10月26日ブルックナー自身の指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏により初演されました。
これが1873 Versionです。
(1873 Version:First performance version, Critical Version by Carragan)。

1872 Versionと1873 Versionには多くの違いがあります。
1)中間の二つの楽章の順序が違っています。
1a)1872 Versionは第2楽章がスケルツォ、第3楽章がアダージョであるのに対し
1b)1873 Versionは第2楽章がアダージョ、第3楽章がスケルツォです。
2)アダージョ楽章では、1872 Versionにあった最後のホルン・ソロは1873 Versionではクラリネット・ソロに変更され、ヴァイオリン・ソロが追加されました。
3)1872 Versionに見られたスケルツォの繰り返しは1873 Versionでは省かれました。
4)1873 Versionの第4楽章(フィナーレ楽章)ではパッセージが完全に書き換えられ、第4トロンボーンが最後の数小節で低音の線を補強するために追加されました。

1876 Version
 1875年から1876年にかけて改訂が行われ、1876年2月20日に同じくブルックナー指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団により演奏されました。
この時の改訂では多くの変更は行われませんでした。
(1876 Version, Carragan)
1)フィナーレの楽章で、1873年版ではカットされた1872年版のいくつかの素材が復活し、1873年版で加えられた新しいパッセージが短くされました。
2)フィナーレ楽章の第4トロンボーンが最後の小節から除かれ、代わりに弦楽器のユニゾンが最後の最後に導入されました。

1877 Version, Haas[1938], Nowak[1965], Carragan[1997]
 1876 Versionから1877 Versionへは重大な変更が行われています。
1)1872 Versionと比較すると第1楽章にカットがあります。
2)第1楽章の最後の数小節は少しだけ長くされました。
3)アダージョ楽章にもカットがあり、ヴァイオリン・ソロが除かれました。
4)スケルツォ楽章では、若干の変更が行われ、いくつかの小節がスケルツォの最後(およびスケルツォの繰り返しにおいても)で繰り返されます。
5)フィナーレ楽章では1976 Versionでは短くされた新しいパッセージが取り除かれ、別のパッセージが導入されました。
6)フィナーレ楽章の最後の数小節で主にトランペットが変更されました。

・1877 Version, Haas[1938]:主に1877 Versionに基づき、1872 Versionのいくつかの要素も取り入れています。
・1877 Version, Nowak[1965]:カットが見られることに関しては1877 versionに近似していますが、第1楽章終わりのトランペットの誤記は見られます。
・1877 Version, Carragan(New definitive edition)[1997]はノヴァーク版の不調和(ハース版からみられる)を解消しました。

(1872年と1877年の楽譜をもとににして1938年にハース版が出版されています。これに対し、ノヴァークは1877年の楽譜に基づきノヴァーク版を出版しました。ノヴァーク版はハース版のリプリントに基づき改訂している為、ハース版の1872年の楽譜の要素が含まれています。キャラガンはこれを修正、「レオポルド・ノヴァークの思い出に」編集を担当しました。)

1892 Version
 ブルックナーは1891年から1892年にかけて僅かの改訂を行いました。
1)第1楽章の最後の小節はさらに少しだけ伸ばされました。
2)フィナーレ楽章の最後の近くに、1877 versionのトランペット・パートに類似した新しいトロンボーン・パートが導入されました。
(この1892 Versionは1892年にドブリンガー社から出版された楽譜に使用されました。この1892年ドブリンガー版はキャラガンの研究により、1977 Versionを最も正確に現しているとされています。)




  1872年版:1872 First Concept Version

         Ausgabe:William Carragan,1991



 1877年版:1877 Version

         Ausgabe:Robet Haas,1938

         Ausgabe:Leopold Nowak,1965

         Ausgabe:William Carragan,1997





*カラヤンは1877年のノヴァーク版により演奏しています。
**1872年稿による演奏のディスクはNAXOSからティントナー指揮ででています。
***1872年稿と1873年稿をあわせて収録したディスクがアインホルフ指揮、リンツ・ブルックナー管弦楽団による演奏でカメラータ・トウキョウからでています。

 カラヤン盤(1877 Version,Leopold Nowak)

         第1楽章)Moderato

         第2楽章)Andante

         第3楽章)Scherzo,Maessig schnell

         第4楽章)Finale,Mehr schnell



 アイヒホルン盤(1872 First Concept Version,ed. Carragan)

         第1楽章)Allegro

         第2楽章)Scherzo,Schnell

         第3楽章)Adagio,Feierlich,etwas bewegt

         第4楽章)Finale,Mehr schnell



 アイヒホルン盤(1873 First Performance Version)

         第1楽章)Moderato

         第2楽章)Adagio,Feierlich,etwas bewegt

         第3楽章)Scherzo,Schnell

         第4楽章)Finale,Mehr schnell







 交響曲第2番所有ディスク



   *ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

          1980.12.4.,1981.1.22.,23.,27.フィルハーモニー、ベルリン

        CD:DG,415 988-2(1877 Nowak)

        CD:Musical Heritage Sosiety,514988T(1876,1872,ED:Nowakの表示)

     MHS盤はDGのライセンスを受けてリリースされたディスクですが、版の表示は異なります。



  *ホルスト・シュタイン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

          1973.11. ゾフィエンザール、ウィーン

        CD:LONDON,POCL-4321(458 051-2)(Haas/1872 Versionの表示)

     1872年ハース版と表示されているが、1877年ハース版の誤記と思われます。





  *クルト・アイヒホルン指揮、リンツ・ブルックナー管弦楽団

          1991.3.25.-28. ブルックナーハウス、リンツ

        CD:Camerata,30CM-195-6(2CD)

     Disc-1:1872年版(First concept,1872)

     Disc-2:1873年版(Premiere,1873)

     ウィリアム・キャラガン校訂による1872年&1873年版の2種類が収録されています。





 〈聴くことができた交響曲第2番〉



  *リッカルド・シャイー指揮、ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

  2007年9月16日、ブルックナーハウス、リンツ(ブルックナー・フェスト2007)

  第1稿1872年

    第1楽章)Allegro:19.41

    第2楽章)Scherzo,Schnell:9.49

    第3楽章)Adagio,Feierlich,etwas bewegt:18.17

    第4楽章)Finale,Mehr schnell:21.22

  (第1稿1872年のライヴ演奏を放送音源で聴くことができました。)



  *リッカルド・ムーティ指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

  2008年4月13日(11時)、ムジークフェライン、ウィーン

  1877年稿

    タイミング:55.30

    第1楽章)Allegro

    第2楽章)Adagio,Feierlich,etwas bewegt

    第3楽章)Scherzo,Schnell

    第4楽章)Finale,Mehr schnell

  (1877年稿のライヴ演奏を放送音源で聴くことができました。)




交響曲第3番 A.Bruckner:Symphonie Nr.3 D-moll

 ブルックナーが交響曲第3番の作曲に着手したのは1872年秋です(同年9月12日に交響曲第2番が完成しているので、これから時間を置かずに第3番の作曲を始めたようです)。第1楽章は1873年7月16日に完成、第2楽章は1873年2月24日に始めて、5月24日に完成、第3楽章は1873年3月11日に始められ7月27日に完成、第4楽章は1873年8月31日にスケッチを終了し、12月末に仕上げられました。(これが第1稿でノヴァーク版III/1として1977年に出版されています。)
 1873年末に第1稿が完成した翌年(1874年)全体にわたって補筆されました。1874年ブルックナーは交響曲第3番を初演させようと努力しましたが、ウィーン・フィルの楽員は演奏不可能として実現しませんでした。
 1876年秋から交響曲第3番の改訂に再びのりだし、1877年10月12日に完成しました。(これが第2稿でノヴァーク版III/2として1980年に出版されています。)
* 同じ第2稿にはエーザー版(1950年出版)があり、ノヴァーク版III/2との違いは第1楽章がエーザー版が650小節に対し、ノヴァーク版が652小節、第3楽章ではノヴァーク版には41小節のコーダがあることです。
**改訂の途中、1876年に第2楽章のみの異稿があり1980年にノヴァーク版III/1アダージョ第2番として出版されています。(1980年5月24−26日、アバド、VPOが「ウィーン芸術週間」においてムジークフェラインで初演しました。)

1877年12月16日に初演が行われましたが、惨憺たる結果に終わりました。

 1878年に入って、ブルックナーはそれまでの作品の補筆改作を手がけますが、交響曲第4番の徹底的改作が行われ(1880年まで)、それと平行して交響曲第3番の改訂も行いました。しかし筆はなかなか進まなかった様です。1888年になって再び交響曲第3番の改訂にのりだし、1889年完成。1890年12月21日ハンス・リヒター指揮ウィーン・フィルで初演され大成功を収めました(これが第3稿でノヴァーク版III/3として1890年に出版されています。)




 第1稿:1.Fassung 1873(第1稿1873年版)

        Ausgabe: Leopold Nowak,III/1,1977



 第1稿アダージョ:Adagio Nr.2 1876(アダージョ第2番1876年版)

        Ausgabe: Leopold Nowak,zu III/1,1980



 第2稿:2.Fassung 1877(第2稿1877年版)

         Ausgabe: Oeser、1950

         Ausgabe: Leopold Nowak,III/2,1980



 第3稿:3.Fassung 1889 (第3稿1889年版)

         Ausgabe: Leopold Nowak,III/3,1958



  各稿の小節数は次のようになっています



 1.Fassung          I:746   II:278  III:152+116      IV:764

 1.Fassung(Adagio)  I:---   II:289  III:-------      IV:---

 2.Fassung(Oeser)   I:650   II:251  III:160+116      IV:638

 2.Fassung(Nowak)   I:652   II:251  III:160+116+41   IV:638 

 3.Fassung          I:651   II:222  III:160+115      IV:495   



* カラヤン/BPOの演奏はノヴァーク版第3稿III/3によります。
** ノヴァーク版第2稿III/2はハイティンク/VPO(1988年、PHILIPS)で聴く事ができます。 同じハイティンクもACOとの録音ではエーザー版による演奏です。
***ノヴァーク版第1稿III/1はインバル/フランクフルト放送響(1982年、TELDEC)で聴く事が 出来ます。
***ノヴァーク版第1稿のうちアダージョ第2番は先に書いたように1980年5月24-26日アバド、VPOにより世界初演されましたが、5月25日の演奏会は1980年11月26日にNHK-FMで放送されました。(第1稿のアダージョ楽章より更に「タンホイザー」になっています。)

  ブルックナーの交響曲第3番は全4楽章でみると大きく3種類の稿があります。第1稿は小節数が最も多く、ワーグナーの楽劇、歌劇からの引用が多々見られます。中でも第2楽章の「タンホイザー」からの引用は聴きもので、ワーグナーを崇拝、尊敬する気持ちの現れたものだと思います。第2稿、第3稿とワーグナーの引用は減っていきます。この交響曲に「ワーグナー」の副題がつくことがありますが第1稿は正に「ワーグナー」交響曲と呼ぶに相応しいと思います。



交響曲第3番の稿/版

稿 (Version) 版 (Edition) I II III IV
1st version (1873) Nowak III/1 (1977) Gemaessigt, misterioso
746
Adagio. Feierlich
278
Scherzo. Ziemlich schnell
152 + 116
Finale. Allegro
764
1876 Adagio no.2 Nowak zu III/1 (1980) - Adagio
289
- -
2nd version, incorporating 1874-77 revisions Nowak III/2 [Fassung von 1877] (1981) Gemaessigt, mehr bewegt, misterioso
652
Andante. Bewegt, feierlich, quasi Adagio
251
Scherzo. Ziemlich schnell
160 + 116 + 41(coda)
Finale. Allegro
638
3rd version / 1st published version (1879) Fritz Oeser [2. Fassung von 1878] (1950) Gemaessigt, mehr bewegt, misterioso
650
Adagio. Bewegt, feierlich, quasi Andante
251
Scherzo. Ziemlich schnell
160 + 116
Finale. Allegro
638
4th version, incorporating 1888-9 revisions Nowak III/3 [Fassung von 1889] (1959) Mehr langsam, misterioso
651
Adagio. Bewegt, quasi Andante
222
Schezo. Ziemlich schnell
160 + 116
Finale. Allegro
495
5th version / 2nd published version Raettig (1890, 2nd edition) Mehr bewegt
651
Adagio (etwas bewegt), quasi Andante
222
Schezo. Ziemlich schnell
160 + 116
Finale. Allegro
495



交響曲第3番のディスク
レーベル
ソフト
演奏 番号 録音年月日 稿/版 タイミング ジャケット画像
Oehms, SACD ヤング指揮
ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
OC 624 2006.10.
ライスハレ(Laeiszhalle)、ハンブルク
1873 原典版
(Urfassung 1873)

I:25'26"
II:19'20"
III:6'40"
IV:17'09"

Philips, CD ハイティンク指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
PHCP-1675 1988.12.
ムジークフェライン、ウィーン
1877版
(Version 1877)

I:21'21"
II:16'58"
III:7'30"
IV:15'40"

DG, CD カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
413 362-2 1980.9.
フィルハーモニー、ベルリン
1888/9 ノヴァーク版
(Fassung 1888/89, Nowak)

I:21'56"
II:16'21"
III:6'53"
IV:11'39"






交響曲第3番所有ディスク

 *エリアフ・インバル指揮、フランクフルト放送交響楽団

        1982年9月、アルテ・オーパー、フランクフルト

         CD:TELDEC,WPCS-6043

  ノヴァーク版第1稿(1873)による演奏



 *ゲオルク・ティントナー指揮、ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団

        1998年8月、ヘンリー・ウッド・ホール、スコットランド、グラスゴー

         音源資料(CD:NAXOS,8.553454)

  ノヴァーク版第1稿(1873)による演奏



 *ヘルベルト・ブロムシュテット指揮、サンフランシスコ交響楽団

        2005年10月14日、Davies Symphony Hallにおけるライヴ

         放送音源

  ノヴァーク版第1稿(1873)による演奏



 *クラウディオ・アバド指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

        1980年5月25日、ムジークフェライン、ウィーン(ライヴ)

       エアチェック・テープ:1980年11月26日NHK-FM放送

  ノヴァーク版第1稿のアダージョ第2番(1876)の世界初演



 *ロブロフォン・マタチッチ指揮、ブダペスト交響楽団

        1979年5月16日、リスト音楽アカデミー大ホール

       エアチェック・テープ:1980年11月19日NHK-FM放送

  第2稿(1877)のエーサー版による演奏



 *ベルナルト・ハイティンク指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

        1988年12月5-7日、ムジークフェライン、ウィーン

         CD:PHILIPS,PHCP-1675

  ノヴァーク版第2稿(1877)による演奏



 *ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

        1980年9月20、21日、フィルハーモニー、ベルリン

         CD:DG,413 362-2

  ノヴァーク版第3稿(1889)による演奏


交響曲第4番 A.Bruckner:Symphonie Nr.4 Es-dur “Romantische”

〈交響曲第4番「ロマンティック」作曲の経緯〉
 ブルックナーが交響曲第4番の作曲に着手したのは1874年1月2日です。全曲のスコアが完成したのは1874年11月22日午後8時30分。(これが第1稿、Nowak IV/1,1975)

 次いでブルックナーは交響曲第4番の全面的改訂作業に取り掛かり、これは1878年1月18日に始まりました。第1楽章は1878年1月18日から6月25日まで改訂作業を行っています。第2楽章は1878年6月26日から1878年7月31日まで改訂作業を行いました。その後、第4楽章の改訂作業に取り掛かり、1878年9月30日に終了。(そのときの第4楽章は1878年のフィナーレ楽章として出版されています。'Volksfest' Finale, Nowak zu IV/2)。更に第3楽章の改訂作業に着手し、1878年11月中に終了しました。

 これで改訂は終わらず1879年11月に再度第4楽章の改訂を行い、1880年6月5日に完成しました。1878年の改訂(第1、第2楽章)と1878年の改作(第1稿とはまったく異なる第3楽章)に1880年の改訂(第4楽章)を加えたものが、1878/1880年稿です。

その後も初演や再演に際し若干の改定が行われました。

1881年の修正を取り入れた楽譜はハース版として出版されています。
R.ハース:Fassung 1878/1880 Originalfassung (1936)

ブルックナーは1886年に第4楽章の最後の終結部で明確に第1楽章冒頭主題が鳴り響くようにホルンとトランペット声部に手を加えました。これを取り入れて楽譜としたのがノヴァーク版第2稿です。
L.ノヴァーク:Fassung 1878/1880 2.Revidierte Ausgabe(1953)

 出版にあたりレーヴェが改訂を加え、1889年にグートマン社から出版されました(初版、改訂版)。
従来、レーヴェによる改訂(改訂第3稿)は「曲本来の構成を無視した大幅なカットを伴う改竄」とされていたが、最近の研究(2004年国際ブルックナー協会発行の全集版)で、ブルックナーが全面参加のもとに準備されたものであるとされ、交響曲第4番の第3稿(Benjamin Korstvedt,2004,IV/3)と認識されています。




〈交響曲第4番「ロマンティック」の稿〉



 第1稿:1.Fassung 1874(第1稿1874年版)

          Ausgabe:Leopold Nowak,1975,IV/1



 第2稿:2.Fassung 1877/1878 mit dem Finale von 1880

          (第2稿1877/1878版+1880年フィナーレ、1878/1880年稿)

          (1881年初演後にカットと微修正、1886年追加修正)

          Ausgabe:Robert Haas,1936(1881年のカットと微修正を含む)

          Ausgabe:Leopold Nowak,1953(1886年の追加修正を含む),IV/2



 第2稿(第4楽章のみ):1878 zur Symphonie Nr.4 ('Volksfest' Finale)

                    (1878年の交響曲第4番フィナーレ楽章)

          Ausgabe:Leopold Nowak,1981 (Nowak zu IV/2)



 改訂第3稿(初出版稿):Revised 3rd version(Loewe,1889) / First published Edition (Gutmann, 1889)





 第3稿:3.Fassung 1888(第3稿1888年版)

          Ausgabe:Benjamin Korstvedt,2004,IV/3





     各稿の小節数は次のようになっています   

              I  II      III            IV

  NowakIV/1 :        630  246  336(Scherzo)+132(Trio)+336   616

                                    +26(Coda)

  Nowak(1878,Finale): --  ---   -----------------------     477     

  Haas(1936) :       573  247  259(Scherzo)+54(Trio)+259    541    

  NowakIV/2 :        573  247  259+54+259                   541

  Loewe(1889) :      573  247  255+54+191                   507

   



交響曲第4番の稿/版

稿 (Version) 版 (Edition) I II III IV
1st version(1874) Nowak IV/1 (1975) Allegro
630
Andante quasi Allegretto
246
Scherzo. Sher schnell; Trio. Im gleichen Tempo
336(Scherzo)+132(Trio)+336+26(Coda)
Finale. Allegro moderato
616
'Volkfest' Finale (1878) Nowak zu IV/2 (1981) - - - Allegro moderato
477
2nd version (1876-8) and revised 2nd version (1878-80) amalgamated Haas (1936) Bewegt, nicht zu schnell
573
Andante quasi Allegretto
247
Scherzo. Bewegt: Trio. nicht zu schnell. kleinesfalls schleppend
259(Scherzo)+54(Trio)+259
Finale. Bewegt, doch nicht zu schnell
541
Revised 2nd version (1878-80)
incorporating some small revisions up to 1886
Nowak IV/2(1953) Bewegt, nicht zu schnell
573
Andante quasi Allegretto
247
Scherzo. Bewegt: Trio. nicht zu schnell. kleinesfalls schleppend
259+54+259
Finale. Bewegt, doch nicht zu schnell
541
3rd version (1887-8) Redlich (1954) Ruhig bewegt. Allegro molto moderato Andante Scherzo. Bewegt; Trio. Gemaechlich Finale. Maessig bewegt
3rd version (1888) Benjamin Korstvedt (2004)
(Korstvedt IV/3)
Ruhig bewegt (nur nicht schnell) Andante Scherzo. Bewegt; Trio. Gemaechlich Finale. Maessig bewegt
Revised 3rd version
(Revised by Loewe)
(1st published version)
1889, first edition (Gutmann, 1889) Ruhig bewegt (nur nicht schnell)
573
Andante
247
Scherzo. Bewegt; Trio. Gemaechlich
255+54+191
Finale. Maessig bewegt
507

* カラヤンはハース版で演奏しています
* ノヴァーク版IV/2はベーム指揮、VPO(DECCA)で聴く事が出来ます
* NowakIV/1はエリアフ・インバル指揮、フランクフルト放送交響楽団(1982年,TELDEC)で聴く事ができます
* NowakのFinale(1878)はゲオルク・ティントナー指揮、ロイヤル・スコティッシュ国立管弦楽団 (1998年9月,NAXOS)で聴く事ができます


〈カラヤンの演奏:交響曲第4番「ロマンティック」〉
 オズボーン著『ヘルベルト・フォン・カラヤン』上巻p61(白水社、2001年)には1927年11月3日付けの母親あての手紙に「目下オーケストラとブルックナーの交響曲第4番”ロマンティック”の練習にかかっています」とあります。この時期にはレーヴェ版(1889年出版)しかなく、カラヤンはレーヴェ版により第4番を知ったのだと思われます。

同書p143には1936/1937シーズンにおいてカラヤンは「新改訂版を徹底的に解明しつくした演奏を行い」との記述があります。
ここでいう新改訂版はハース版(1936年出版)のことです。上記p143の記述の直前に「ロベルト・ハースの新改訂版によるブルックナーの交響曲第4番の演奏も、批評家たちの注目を集めた。」との記述があります。
(カラヤンが「ロマンティック」を初めて演奏会で取り上げたのは1936/1937シーズンになってからのことで、シーズン中に2回ー1936年10月24日、1937年3月21日ーに第4番の演奏会を行いました。)

カラヤンが1936年10月24日、1937年3月21日に「ロマンティック」を演奏会で取り上げた時、ハース版を採用したのかは、KARAJAN CENTRUM等には記載されていません。オズボーン著『ヘルベルト・フォン・カラヤン』上巻の記述内容からハース版を用いたと考えてよいと思います。

カラヤンは1936/1937シーズンに2回演奏会で初めて「ロマンティック」を2回取り上げましたが、その後1961/1962シーズンの1961年までこの曲を演奏会に取り上げることはありませんでした。

〈カラヤンのスタジオ録音〉
 カラヤンはスタジオ録音を2回(EMI、DG)行っています。それぞれの録音におけるカラヤンの楽譜(稿)に対する対応に違いがみられます。

 交響曲第4番の改訂版(1889年レーヴェによる改訂版)では第1楽章の325小節以降にティンパ二のトレモロが追加されています。また、第4楽章の76小節にシンバルが追加されています。
 カラヤンの1970年録音のEMI盤は「ハース版」の表記どおり、上記2箇所は採用していません。
 それに対し1975録音のDG盤では「1878/80」と表記されているが、上記2箇所の改訂版の楽器追加を採用しています。
(『こだわり派のための名曲徹底分析 ブルックナーの交響曲』金子建志著、 音楽之友社、1994、p113-115による)

このことは、基本的にはハース版を採用したカラヤンですが、第4番をレーヴェ版で知ったという事に関係があるのかもしれません。生涯、17回演奏会で第4番を取り上げ、その他にスタジオ録音を2回行っていますが、それぞれの演奏でどのように行っていたかが分ると興味深いと思います。


〈カラヤンの演奏:交響曲第4番「ロマンティック」第1楽章〉「ヴァイオリンのオクターヴ上げ」
 1970年にカラヤン/BPOが行ったスタジオ録音(EMI)ではハース版の表示がありますが、第1楽章の最初のトゥッティ(51小節)直前にヴァイオリンがポルタメントをかけてオクターヴ上げ(47〜50小節)を行っています。
(レーヴェ版ではオクターヴ上げてレガートで演奏するようになっているようです。)

1973年6月10日にザルツブルク精霊降臨祭音楽祭で行った演奏会ではヴァイオリンのオクターヴ上げを行っています。
1974年9月1日にルツェルン音楽祭で行った演奏会ではヴァイオリンのオクターヴ上げはおこなっていません。
1975年4月19日にベルリンで行った演奏会ではヴァイオリンのオクターヴ上げを行っています。
1975年にスタジオ録音したDG盤は原典版1878/80の表示がありますがヴァイオリンのオクターヴ上げを行っています。
1979年6月2日にザルツブルク精霊降臨祭音楽祭で行った演奏会ではヴァイオリンのオクターヴ上げを行っています。

〈カラヤンの演奏:交響曲第4番「ロマンティック」第1楽章〉「325小節から行われるティンパ二のトレモロの追加」
 第1楽章展開部の325小節から練習記号[L]まで(325〜332小節)にハース版にはみられないティパニの追加があります。
(レーヴェ版にあり、325〜328小節にティンパニのトレモロをフォルテで、329小節〜332小節までディミヌエンドするという内容です。)

1970年のカラヤン/BPOのスタジオ録音(EMI)には「325小節からティンパ二のトレモロの追加」は行われていません。

これに対し、
1973年6月10日ザルツブルク精霊降臨祭音楽祭
1974年9月1日ルツェルン音楽祭 
1975年4月19日ベルリンのフィルハーモニーで行われた演奏会
1975年にスタジオ録音したDG盤
1979年6月2日ザルツブルク精霊降臨祭音楽祭
では、全て「325小節からティンパ二のトレモロを追加」しています。



カラヤンの「ロマンティック」の演奏時間を列記します。
ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」 I II III IV
1970年スタジオ録音(EMI) 20'48" 15'38" 10'41" 23'05"
1973年6月10日ザルツブルク精霊降臨祭音楽祭ライヴ 19'05" 16'17" 10'57" 22'13"
1974年9月1日ルツェルン音楽祭ライヴ 19'11" 16'00" 10'34" 21'19"
1975年4月19日ベルリン・ライヴ(Dream Music) 18'02" 14'47" 10'28" 20'28"
1975年 スタジオ録音(DG) 18'14" 14'27" 10'43" 20'28"
1979年6月2日ザルツブルク精霊降臨祭音楽祭ライヴ 18'47" 15'47" 10'42" 20'05"



交響曲第4番「ロマンティック」のディスク
レーベル
ソフト
演奏 番号 録音年月日 稿/版 タイミング ジャケット画像
Teldec
CD
エリアフ・インバル指揮
フランクフルト交響楽団
WPCS-21014 1982.
フランクフルト
第1稿
(First version 1874)

I: 18'53"
II: 18'42"
III: 13'11"
IV: 17'18"

BMG (Oehms Classics)
SACD Hybrid
シモーネ・ヤング指揮
ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
BVCO-37453
(OC 629)
2007.12.1.-3.(ライヴ録音)
ライスハレ(旧称ムジークハレ)、ハンブルク
1874年初稿(ノヴァーク版)
(Urfassung / Original Version 1874)

I: 19'54"
II: 18'28"
III: 12'45"
IV: 18'53"

EMI, CD カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
CDM-7 69006 2 1970.9.25.,10.16.
イエス・キリスト教会、ベルリン
Edition/Ausgabe: Robert Haas

I: 20'37"
II: 15'28"
III: 10'33"
IV: 23'02"

DG, CD カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
F35G 50125
(415 277-2)
1975.4.
フィルハーモニー、ベルリン
原典版1878/80
(Originalfassung: 1878/80)

I: 18'14"
II: 14'27"
III: 10'43"
IV: 20'28"

Decca, CD カール・ベーム指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
POCL-5040 1973.11.
ゾフィエンザール、ウィーン
ノヴァーク版
(Nowak version)

I: 20'04"
II: 15'28"
III: 11'02"
IV: 21'03"

Delta Classics
CD
内藤 彰指揮
東京ニューシティ管弦楽団
DCCA-0017
2005.7.5.(ライヴ録音)
東京芸術劇場大ホール、東京
1888 第3稿(コースヴェット版)
(1888 version, Korstvedt edition)

I: 17'40"
II: 14'59"
III: 09'14"
IV: 19'10"








〈交響曲第4番所有ディスク〉



  *エリアフ・インバル指揮、フランクフルト放送交響楽団

          1982.フランクフルト

        CD:TELDEC,WPCS-21014(0630-18714-5)

   ノヴァーク版第1稿(1874年)による演奏



  *ゲオルク・ティントナー指揮、ロイヤル・スコティッシュ国立管弦楽団

            1998.9.

          CD:NAXOS,8.554432

   1878年稿第4楽章のフィナーレの演奏

    **この演奏はAntonさんに資料を頂きました。



  *ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

            1970.9.,10.イエス・キリスト教会、ベルリン

          CD:EMI,CDM5 66094 2(ART)

   1978/80年稿(ハース版)による演奏



  *カール・ベーム指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

            1973.11.ソフィエンザール、ウィーン

          CD:LONDON,POCL-5040

   1978/80年稿(ノヴァーク版)による演奏

 


交響曲第5番 A.Bruckner : Symphonie Nr.5 B-dur

 ブルックナーは交響曲第5番の作曲に着手したのは第4番の完成後3ヶ月ほどたった1875年2月 14日です。第2楽章のアダージョから始めました。次いで3月3日に第1楽章を書き始めました。 75年4月17日に第3楽章スケルツォの主部が終了、6月22日にトリオが終了しました。第4楽章 は75年6月23日に開始し翌76年5月16日に完了しました。第5番を一通り完了した後、交響曲第 3番の改訂作業に取り組みいったん第5番から離れましたが、77年5月16日に第5番の仕事に戻り、 第4楽章、第1楽章、第2楽章の順に見直しをし78年1月4日に仕事を完了しました。この過程で新 たにバス・チューバを加えました。



  稿:Fassung 1878

       Ausgabe:Leopold Nowak,1951

 

 ブルックナーの交響曲にはコラールふうの楽節がしばしば現れます。 門馬直美氏によるとブルックナーは「カトリック教徒ではあったが、プロテスタントのバッハの音楽 には敬意を払い、またバロックの多くの作曲家の作品も研究していて、ルター派のコラールには親近 感を抱いていたのである。さらにブルックナーは、メンデルスゾーンのオラトリオ《聖パウロ》をは じめとする宗教音楽、交響曲第2番《讃歌》、交響曲第5番《宗教改革》でのコラール的なものの扱 い方からも影響を受けた。」とのことです。 (『作曲家別名曲ライブラリー5、ブルックナー』音楽之友社、p15)。
ブルックナーは既存のコラールをそのまま使うことはせず、コラール風の句を金管楽器を主体にして 奏し、崇高感や荘厳感を出しています。このようなコラール主題は交響曲第3番以降で特に目立って 現れてきます。なかでも交響曲第5番は「コラール風」と称されることもあるように実に効果的に扱 われています。

 メンデルスゾーンのオラトリオ《聖パウロ》は聴いたことがありませんが、交響曲第2番《讃歌》、 第5番《宗教改革》は好きな曲でよく聴きます。カラヤンは素晴らしい録音を残してくれています (DG、72−73年録音)。5番の第4楽章はコラール楽章でChoral"Ein feste Burg ist unser Gott" Andante con moto-Allegro maestosoです。

*メンデルスゾーンのオラトリオ「聖パウロ」を入手しました。好きな曲です。あわせてオラト リオ「エリア」も入手しました。何れもメンデルスゾーン縁のオーケストラであるライプツィッヒ・ ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏です。何れもカラヤンの録音は無いのですが、ブルックナーが 影響を受けたということで参考として《メンデルスゾーン演奏史2》としてページを作りました。 

 ブルックナーの第5番の第4楽章には全金管楽器により厳かに奏されるコラールがあります。また、 第4楽章のコーダの後半部にはブルックナー自身がコラール(Choral)と名付けた楽段があり、実に 雄大で荘厳に諸主題が繰り返され、圧倒的なクライマックスを作り上げています。カラヤンの演奏を 聴くとまさしく厳かで荘厳な響きを味わう事が出来ます。

交響曲第5番所有ディスク



  *ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ウィーン交響楽団

          1954年10月2日、ムジークフェライン、ウィーン、ライヴ録音

        CD:ORFEO D'OR,C231 901A

   ハース版による演奏



  *ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

            1969年8月27日ザルツブルク音楽祭ライヴ

          CD:ANDANTE,2060

   ハース版による演奏



  *ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

            1976年12月6日-12月11日、フィルハーモニー、ベルリン

          CD:DG,F66G50397/8(415 985-2)

   ハース版による演奏



  *フランツ・ウェルザー=メスト指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

            1993年5月31日‐6月1日、コンツェルトハウス、ウィーン、ライヴ録音

          CD:EMI,5 55125 2

   ノヴァーク版による演奏

 

  *フランツ・ウェルザー=メスト指揮、クリーヴランド管弦楽団

            2006年9月12日‐13日、ザンクトフローリアン、リンツ、ライヴ録音

          DVD-video:EuroArts,2055918

   ノヴァーク版による演奏



  *オイゲン・ヨッフム指揮、王立アムステルダム・コンセルトへボウ管弦楽団

            1964年5月30日‐31日、オットーボイレン教会、ドイツ、ライヴ録音

          CD:Philips,PHCP-3984(426 107-2)

   ノヴァーク版による演奏



  *オイゲン・ヨッフム指揮、ドレスデン・シュターツカペレ

            1980年2月,3月、ルカ教会、ドレスデン

          CD:EMI,5 72661 2(forte)

   ノヴァーク版による演奏



  *ギュンター・ヴァント指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

            1996年1月12日‐14日、フィルハーモニー、ベルリン、ライヴ録音

          CD:RCA,BVCC-1510

   ハース版による演奏



  *セルジュ・チェリビダッケ指揮、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

            1993年2月12,14,16日、ガイスタス、ミュンヘン、ライヴ録音

          CD:EMI,TOCE-9897/98

   ハース版による演奏



  *ロリン・マゼール指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

            1974年3月25日‐28日、ゾフィエンザール、ウィーン

          CD:London,POCL-4324(458 054-2)

   ノヴァーク版による演奏




交響曲第6番 A.Bruckner:Symphonie Nr.6 A-dur

 交響曲第6番の作曲にブルックナーが着手したのは1879年8月ないし9月のことです。第1楽章 に着手し、1880年9月27日に終了しました。第2楽章は1880年11月21日に作曲を終了しました。 第3楽章は1880年12月17日に書き始め、終了は1881年1月17日、第4楽章は1881年6月28日に スケッチを終え、1881年9月3日に完成しました。



  稿:Fassung 1881

        Ausgabe:Robert Haas,1935

        Ausgabe:Leopold Nowak,1952



  改訂版:C.Hynais版(1899)

      Woess版(1927)

        



*この稿はブルックナーの自筆楽譜に基づいています。
**交響曲第6番の楽譜が始めて出版されたのは1899年、ブルックナーの死後のことです。 シリル・ヒュナイス(Cyril Hynais)が写譜を担当しましたが、元にした楽譜が初版(ブルック ナーの自筆楽譜ではない)だったため、第3楽章のトリオの第2部を繰り返す、強弱記号の変 更、オーケストレーションの追加・変更など自筆譜との違いがあります。

交響曲第6番の稿/版

稿 (Version) 版 (Edition) I II III IV
1st version(1879-81) Haas (1935)
Nowak VI (1952)
Majestoso Adagio. Sehr feierlich Scherzo. Nicht schnell; Trio. Langsam Finale. Bewegt, doch nicht zu schnell
1st published version 1899, first edition, ed. Hynais(1899) Maestoso Adagio. (Sehr feierlich) Scherzo: Ruhig bewegt (etwas gemessen); Trio. Die Achtel wie ebeb vorher die Viertel Finale: Bewegt, doch nicht zu schnell


 交響曲第6番のディスク
レーベル
ソフト
演奏 番号 録音年月日 稿/版 タイミング ジャケット画像
DG, CD カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
F35G 50400
(419 194-2)
1979.9.
フィルハーモニー、ベルリン
原典版(Originalfassung)

I: 15'16"
II: 18'58"
III: 7'52"
IV: 15'13"

EMI, CD チェリビダッケ指揮
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
TOCE-9899 1996.11.27.-29.
ガスタイク、ミュンヘン
ハース版(Haas)

I: 17'02"
II: 22'01"
III: 8'17"
IV: 15'07"

Lindoro, CD Ira Levin, conductor
Symphony Orchestra of Norrlands Opera
AA-0105 2008.5.
Norrland Operan Concert Hall
1899, first edition, ed. Hynais

I: 16'35"
II: 16'06"
III: 9'57"
IV: 14'04"




交響曲第7番 A.Bruckner:Symphonie Nr.7 E-dur

 1881年9月3日に交響曲第6番を完成させてすぐ、9月23日に交響曲第7番の第1楽章のスコアに 着手しました。実際に完成したのはスケルツォの楽章が最初で、1882年10月16日です。次いで 同年12月29日に第1楽章が完成しました。アダージョ楽章は1883年1月22日にスケッチに着手し、 4月21日に完成しました。第4楽章は1883年8月17日、9月3日の点検を経て同年9月5日に完成しま した。 1884年12月30日の初演後、1885年に修正を加えています。
*1883年12月30日の初演はオーストリア以外で初めて行われました。ライプツィヒ歌劇場です。 指揮は二キシュ。大成功を収め、この日は「ブルックナーの世界的名声の誕生の日」(アウアー) となりました。



  1883年稿:未出版



 1885年稿

         Ausgabe:Robert Haas,1944

         Ausgabe:Leopold Nowak,1954

 ハース版では第2楽章最後の頂点におけるシンバル、トライアングル、ティンパ二を採用 していません。一方ノヴァーク版ではこれら打楽器を採用しています。
 *カラヤンのディスクでは1975年録音のDG盤(BPO)では原典版の表記、1989年録音のDG盤 (VPO)ではハース版の表記になっています。(シンバル等の打楽器がなっています。)

 交響曲第7番所有ディスク



  *ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

          1970.10.,1971.2.イエス・キリスト教会、ベルリン(ダーレム)

        CD:EMI,CDM5 66095 2(KARAJAN EDITION,ART)

   ハース版(Ausgabe:Robert Haas)の表示



  *ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

          1975.4.14.,15.フィルハーモニー、ベルリン

        CD:DG,F35G50386

   原典版(Originalfassung)の表示



  *ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

          1989.4.19.-23.ムジークフェライン、ウィーン

       CD:DG,439 037-2(Karajan Gold,OIBP)

   ハース版の表示



  *ギュンター・ヴァント指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

          1999.11.19.-21.フィルハーモニー、ベルリン(ライヴ)

       CD:BMG,BVCC-34030

   ハース版による演奏



  *クラウディオ・アバド指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

          1992.3.,4.ムジークフェライン、ウィーン

       CD:DG,437 518-2

   ノヴァーク版による演奏



  *ベルナルト・ハイティンク指揮、バイエルン放送交響楽団

          1981.11.19.ヘラクレス・ザール(ライヴ)

       1982.8.26.NHK-FM放送エア・チェック

   ノヴァーク版による演奏


交響曲第8番 A.Bruckner : Symphonie Nr.8 C-moll

〈交響曲第8番作曲の経緯〉
 ブルックナーが交響曲第8番の作曲に着手したのは1884年夏のことす。1884年10月1日に第1楽章の スケッチが終了、続いて第3楽章のスケッチが1885年2月16日に終了、第2楽章のスケッチは1885年7月 26日に終わり、第4楽章のスケッチは1885年7月27日から8月16日までかかりました。スケッチの終了後 仕上げにかかり、第2楽章は1885年10月19日(もしくは24日)、第1楽章は1886年2月7日、第2楽章は 1886年8月26日(もしくは9月4日)、第4楽章は1887年4月22日にそれぞれ書き終えています。以後部分 的な修正を行い、全曲完成は1887年8月10日の事です。(これが第1稿1887年版でノヴァーク版第1稿 VIII/1として1977年に出版されています。)
 ブルックナーは1887年10月に友人のレヴィ、弟子のヨーゼフ・シャルクに第8番を見せましたが、改 作を勧められました。1889年改訂に着手し、第3楽章が1889年3月4日から5月8日まで手直しし、第4楽章 は7月31日、第2楽章は9月25日に修正を終了、全体は1890年1月29日に改訂を終了しました。しかし、そ の後も改訂を続けブルックナー自身の言葉によると「1890年2月10日に改訂を終了、完全に終了したのは 2月28日、そして完全に完了したのは1890年3月10日」とのことです。(これが第2稿1890年版で、ハー ス版として1939年に、ノヴァーク版VIII/2として1955年に出版されました。)



  第1稿:1.Fassung 1887(第1稿1887年版)

         Ausgabe:Leopold Nowak VIII/1 1977



 c.1888 Adagio (unpublished)

         Edited by Dermot Gault and Takanobu Kawasaki



 第2稿:2.Fassung 1890(第2稿1890年版)

         Ausgabe:Robert Haas,1939

         Ausgabe:Leopold Nowak VIII/2 1955



 改訂版:1892 Version by Bruckner and Joseph Schalk. Edited Robert Lienau

         出版にあたり、シャルクの勧めでカットやダイナミックス、フレージング、

         オーケストレーションの変更が施された。

         この版で1892年12月18日にハンス・リヒター指揮で初演された(ウィーン)。





   各稿の小節数は次のようになっています



    1.Fassung       :  I:543  II:211+105  III:329  IV:771

    2.Fassung(Haas) :  I:417  II:195+93   III:301  IV:747

    2.Fassung(Nowak):  I:417  II:195+93   III:291  IV:709



   ハース版とノーヴァーク版の違いは、ノヴァーク版は1890年に基づいているのに対し、

   ハース版は1887年版と1890年版の両者に基づいていることによる。ハースはブルックナー

   自身による書き直しや変更は採用したが、シャルクの影響と思われるカットは戻している。

   このため、ハース版はノヴァーク版よりも小節数が多い。



交響曲第8番の稿/版

稿 (Version) 版 (Edition) I II III IV
1st version(1884-7) Nowak VIII/1 (1972) Allegro moderato
543
Scherzo. Allegro moderato; Trio. Langsam
211+105
Adagio. Feierlich langsam, doch nicht schleppend
329
Finale. Feierlich, nicht schnell
771
'Mixed form' of 1st and 2nd versions Haas (1939) Allegro moderato
417
Scherzo. Allegro moderato; Trio. Langsam
195+93
Adagio. Feierlich langsam, doch nicht schleppend
301
Finale. Feierlich, nicht schnell
747
2nd version (1888-90) Nowak VIII/2 (1955) Allegro moderato
417
Scherzo. Allegro moderato; Trio. Langsam
195+93
Adagio. Feierlich langsam, doch nicht schleppend
291
Finale. Feierlich, nicht schnell
709
1st published version (1892)
(Revised by Joseph Schalk)
1892, 1st edition
(Haslinger/Schlesinger, 1892)
Allegro moderato
417
Scherzo. Allegro moderato; Trio. Langsam
195+93
Adagio. Feierlich langsam, doch nicht schleppend
291
Finale. Feierlich, nicht schnell
705


*カラヤンはハース版による演奏をしています。
**ノヴァーク版VIII/2による演奏はジュリーニ指揮、VPOによる演奏があります(DG)
***ノヴァーク版VIII/1による演奏はインバル指揮、フランクフルト放送響による演奏があります (TELDEC)

 カラヤンの演奏に関して世に言う音楽評論家の評にはほとんど無関心なので、取り立てて書く必要 は感じていませんが、スクラップで取ってあった「レコード芸術」1990.6月号になるほどとうなずか せられる記事がありましたのでここに引用します。
「ブルックナーを聴く(下)」(p223−254)のなかで交響曲第8番を担当した平野昭氏の文章です。

ーここから引用です(p242)−
『決定稿ハース版による演奏では先ずカラヤンを挙げたい。一般に日本でのブルックナー 受容の場合、 カラヤンはむしろマイナー的存在となっているようだが、その音楽の洗練された響きと、形式構成のバ ランス良い築き方は傑出したものがある。よく、ブルックナーの素朴な味とか時には粗野なほどのたく ましさとか宗教的敬虔さとか、大自然の神秘といった迷信・盲信的なものを追い求める聴き手もいるが、 それは決して漠とした雰囲気などではなく、ブルックナーがそうしたものを表現しようとする場合には、 音楽構成の中に明確に盛り込んでいるのである。とすれば、それらを表現するには、音楽的メッセージ として楽譜に託されたものを忠実に再現していくのが最良の方法となろう。この意味で、カラヤンは見 事に絶対音楽としてのブルックナーの美の世界を再現している。ー後略』
ーここまでが引用ですー


交響曲第8番所有ディスク



  *エリアフ・インバル指揮、フランクフルト放送交響楽団

            1982年、フランクフルト

         CD:TELDEC,WPCS-21016(0630-14020-5)

   第1稿(1887年)による演奏



 *エリアフ・インバル指揮、フランクフルト放送交響楽団

            1982.9.22.アルテ・オーパー、フランクフルト(ライヴ)

   第1稿(1887年版)による演奏

  1983.11.23.NHK-FM放送のエア・チェック



  *ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

            1975.1.,4.フィルハーモニー、ベルリン

         CD:DGPOCG-90058/9(453 827-2)



  *ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

            1988.11.ムジークフェライン、ウィーン

         CD:DG,POCG-20007/8(427 611-2)

     カラヤンの2種のディスクはハース版(1890年稿)による演奏



  *ベルナルト・ハイティンク指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

            1995.1.10.-1.13.ムジークフェライン、ウィーン

         CD:PHILIPS,PHCP-3493/4(446 659-2)

   ハース版(1890年稿)による演奏



  *カルロ・マリア・ジュリーニ指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

            1984.5.23.-5.30.ムジークフェライン、ウィーン

         CD:DG,415 124-2

   ノヴァーク版(1890年稿)による演奏



 *オイゲン・ヨッフム指揮、バンベルク交響楽団

            1982.9.15.NHK-ホール、東京(ライヴ)

   ノヴァーク版(1890年稿)による演奏

  1982.9.15.NHK-FM放送(生中継)のエア・チェック



 *ロリン・マゼール指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

            1983.8.3.祝祭大劇場、ザルツブルク(ライヴ)(ザルツブルク音楽祭)

   ノヴァーク版による演奏

  1983.11.17.NHK-FM放送のエア・チェック



 *クラウス・テンシュテット指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

            1981.11.21.フィルハーモニー、ベルリン(ライヴ)

   ノヴァーク版による演奏

  1982.10.31.NHK-FM放送のエア・チェック 


交響曲第9番 A.Bruckner: Symphonie Nr.9 D-moll

作曲の経緯:
 ブルックナーが9番の作曲を開始したのは1887年8月12日です。これは実筆資料に記載されたスケッチ の最初の日付です。この日付は交響曲第8番の第1稿が完成された1887年8月10日の直後ということにな ります。最初期のスケッチは第1楽章に関するもので87年9月中旬まで続きますが10月になると第8番の 改訂が始まった為中断されます。次にみられる9番のスケッチの日付は89年1月4日で、それ以降も散発的 にスケッチがみえますが、本格的にスケッチに集中するのは1890年夏「ヘルゴラント」完成後です。
総譜化が始まったのは1991年4月末ですが、スケッチの作業も続けられます。第1楽章は1892年10月14日 にいったん書き上げられ、1893年12月23日に最終的に完成しました。第2楽章は1893年2月27日にいった ん書き上げられ、1894年2月15日に最終的に完成しました。第3楽章のスケッチは1893年初頭に始まります が、本格化するのは94年に第2楽章まで完成した後になります。94年10月31日にいったん書き上げられ、 94年11月30日に最終的に完成しました。(この第2楽章のトリオは最終=3つめのもので嬰ヘ長調)。

第4楽章はかなりの量のスケッチが残されていて、コーダ直前あたりまで再構成することが可能とのことですが、 完成することなくブルックナーの絶筆になりました。第4楽章に着手したのは1895年5月24日で、亡くなる 当日の1896年10月11日にもフィナーレに携わっていました。

 ブルックナー自身がフィナーレが未完に終わった場合にはテ・デウムをフィナーレの代用にするつもりだ とウィーン大学の最終講義の折に洩らしていました。

*第2楽章のトリオには最終的なものの前に、ヴィオラ独奏が活躍するヘ長調と嬰ヘ長調の2種のスケッチ 稿があり、それぞれ89年、93年に書かれたと考えられています。




  第1稿:Fassung 1894 (first version)

           Ausgabe: Alfred Orel, 1934



  改定第1稿:Fassung 1894 (first version revised)

           Ausgabe: Leopold Nowak, 1951 ('second revised version')

           Ausgabe: Benjamin-Gunnar Cohrs, 2000 ('new critical edition, with reference to the work of Alfred Orel and Leopold Nowak')



  初出版稿:Fassung 1894 (first published version)

           Ausgabe: Ferdinand Loewe, 1903





交響曲第9番の稿/版

稿 ( Version, Fassung ) 版 ( Edition, Ausgabe ) I II III
Movements 1-3, 1st version Alfred Orel, 1934 Feierlich, misterioso
567
Scherzo. Bewegt, lebhaft; Trio. Schnell
250 + 264
Adagio. Langsam, feierlich
243
Movement 2 Benjamin Gunnar Cohrs, 1998
(' IX Symphonie D-moll, Scherzo und Trio: Entwuerfe. Aelteres Trio mit Viola-Solo (1893): Autograph Partitur ')
- Scherzo; Trio -
Movements 1-3, 1st version revised Leopold Nowak, 1951 (' second revised version ') Feierlich, misterioso
567
Scherzo. Bewegt, lebhaft; Trio. Schnell
250 + 264
Adagio. Langsam, feierlich
243
Movements 1-3, 1st version revised Benjamin-Gunnar Cohrs, 2000
(' new critical edition, with reference to the work of Alfred Orel and Leopold Nowak ')
Feierlich, misterioso Scherzo. Bewegt, lebhaft; Trio. Schnell Adagio. Langsam, feierlich
Movements 1-3, 1st published version Ferdinand Loewe, 1903 Feierlich, misterioso Scherzo. Bewegt, lebhaft; Trio. Schnell Adagio. Langsam, feierlich


 カラヤンは生涯39回交響曲第9番を演奏会で取り上げています。管弦楽 団はアーヘン市立歌劇場管弦 楽団と2回、ベルリン国立歌劇場管弦楽団と2回、ウィーン交響楽団と8回、ウィーン・フィルハーモニー 管弦楽団と7回、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と20回です。


〈カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団〉
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とは1954年11月21,22日を最初に1966年に2回、1970年に4回、 1971年に1回、1974年に3回、1975年に2回、1976年に1回、1985年に3回、1986年に2回と30年以上 にわたって演奏しています。その間、1966年と1975年にスタジオ録音を残している他、ライヴ録音も残さ れています。

 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との演奏を各楽章の演奏時間からみていきます。
*時間表示はジャケットのクレジットではなく、プレーヤーに表示される実際の演奏時間です。

〈カラヤン指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団〉
ブルックナー:交響曲第9番 I II III
1966年3月(スタジオ録音 CD:DG,429 904-2) 24'00" 10'05" 25'25"
1970年1月22日(ライヴ録音 CD:ARKADIA,CDGI722.1) 24'30" 10'14" 25'58"
1974年6月21日(ライヴ録音 CD-R:Vibrato,VLL-84) 24'34" 10'07" 25'57"
1975年9月(スタジオ録音 CD:DG,F35G 50369) 24'54" 10'37" 25'51"
1976年9月2日(ライヴ録音 CD-R:FKM,FKMCDR144) 24'16" 10'15" 25'25"
1985年8月31日(ライヴ録音 CD-R:Karna Musik,Sampler) 24'12" 10'48" 23'26"
1985年11月23日(ライヴ録音 CD-R:FKM,FKMCDR153) 22'27" 10'15" 24'04"
1985年11月(ライヴ録音 LD:Sony,SRLM 942) 22'56" 10'18" 24'11"



〈カラヤン指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団〉
 一方、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との演奏は1962年に3回、1967年に1回、1976年に1回、 1978年に2回演奏しています。この間、ライヴ録音が残されています。

〈カラヤン指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団〉
ブルックナー:交響曲第9番 I II III
1976年7月25日(ライヴ録音 CD:DG,POCG-2625) 24'14" 10'28" 23'30"
1978年5月7,8日(ライヴ録音 DVD:DG,UCBG-1053) 22'36" 9'04" 23'26"


 ベルリン・フィルと1966年3月のスタジオ録音までに、カラヤンは実演で17回9番を演奏し、この録音時期に重な るように18、19回目の演奏会を行っています。この時期にはカラヤンには確固たる9番があったものと 思われます。それを究極の状態にまで完成させた時期が75年のスタジオ録音の頃だったのではないで しょうか。
75年のスタジオ録音時に既に28回演奏会で取り上げています。1976年9月2日のライヴ〈 31回目の実演 〉 も基本的には同じものだと思います。
 究極と思われた9番の演奏ですが、カラヤンは85年11月23,24日の演奏〈 それぞれ36、 37回目の実演です 〉でさらに飛躍し浄化したブルックナーの9番の世界を再現しているように感じられます。
 このことについて85年11月24日のライヴLDの解説に興味深い記述がありますので引用します。

『そして1985年11月24日、死者の霊を慰める教会暦の最後の聖日にあたる「全聖徒の日」に、77歳の カラヤンはベルリン・フィルとともに交響曲第9番を演奏すべく、フィルハーモニーの指揮台に立った。 カラヤンの第9番は若いころから限りなく神に近い演奏だった。それが年月を経るにしたがってより簡潔 になっていった。晩年にカラヤンと共演したピアニストが「まるで天から振っているような神々しさだっ た」と話していたが、その演奏はじょじょに余分な着物を脱ぎ捨て、シンプルになっていった。この第9 番の特に音楽的密度の高い第3楽章において、カラヤンは完全にブルックナーの心境に達している。死に 臨んだ人のみが表現しうる透徹した魂の浄化を、カラヤンはブルックナーの楽譜から読み取ったのであろ うか。』(Sony Records,LD:SRLM 942,井熊よし子氏の「カラヤンとブルックナー」から引用)


交響曲第0番 A.Bruckner:Symphonie D-moll ("Nullte")

 ブルックナーがこの交響曲に着想したのは研究者によっても意見の統一はなされていませんが、 1863年から1864年の頃のようです。(ノヴァークによると主たる作曲は1863年から1864年に行 われたとの事です。)ブルックナーはこのときの草稿をそのままにしていて、1869年になってあ らためて相当の手を加え総譜に作曲の時期を記入しました。それでは、
 第1楽章は1869年1月24日ウィーンで着手、6月28日(もしくは7月1日)ウィーンで終了。
 第2楽章は1869年7月12日、弦のスケッチ終了。8月21日リンツで完了。
 第3楽章はトリオについてのみ記入があり、1869年7月16日ウィーンで着手、8月25日 リンツで完了。
 第4楽章には1869年8月19日リンツで完了。
となっています。1869年9月12日リンツで作曲を終了したという書き込みをしています。



    1869年稿:

             Ausgabe:Leopold Nowak,1968



 楽章の構成は次のようになっています

I  :Allegro 

II :Andante

III:Scherzo(Presto)

IV :Finale(Moderato)

 カラヤンは残念な事にこの交響曲の録音を残していません。

 交響曲第0番所有ディスク



  *エリアフ・インバル指揮、フランクフルト放送交響楽団

          1990.1.アルテ・オーパー、フランクフルト

        CD:TELDEC,WPCS-6040


交響曲ヘ短調(第00番) A.Bruckner:Symphonie F-moll ("Studiensymphonie")

 ブルックナーは1861年3月に6年間師事したジーモン・ゼヒターから勉学の終了を認められ た。この時期ブルックナーはリンツ大聖堂のオルガニストであったが、ゼヒターから学んだの は和声法、対位法という基礎的技法であった。しかし、ソナタや交響曲などの作曲法に関する 充分な知識はもっておらず、1861年末にオットー・キツラーに師事し、音楽形式論と管弦楽 法を勉強した。この勉強を通じベートーヴェンの研究を行い、またワーグナーの歌劇を知る事 になった。これは1863年7月まで続けられた。
(キツラーが選んだ教材はベートーヴェンとメンデルスゾーンであった。また、リンツ市立劇場の指揮者であったキツラーはリンツ初演を行なうためワーグナーの歌劇「タンホイザー」の総譜をブルックナーと共に検討した。)

 キツラーの元で勉学した成果は1冊の練習帳(326ページからなる「キツラー練習帳」)に現 れている。この練習帳の最後に交響曲へ短調のスケッチがある。交響曲へ短調は楽章順に作曲さ れ、各楽章ごとにスケッチと総譜化が行われた。1863年1月7日から5月26日までである。この作 品を師のキツラーは「特に霊感を与えられない」とみなした為、ブルックナーはこの作品を片付 けておいた。ブルックナーは晩年にベルヴェデーレ宮殿に転居するが、その前に自作の過去の作 品に目を通し、価値が無いと自己判断した作品の処分・整理を行った。その折、幸運なことに ヘ短調交響曲を破棄することなく「習作交響曲(Studiensymphonie)」と記入し残した。



  稿:Fassung 1863

         Ausgabe:Leopold Nowak,1973



 この交響曲へ短調には前期ロマン派の作曲家からの影響がみられ、ことにシューマンやメンデ ルスゾーンの影響がはっきりしているといわれている。ブルックナーはザンクト・フローリアン 時代からメンデルスゾーンの音楽に親しんでいた。

 楽章の構成は次のようになっている
I :Allegro molto vivace
II :Andante molto
III:Scherzo(Schnell)
IV :Finale(Allegro)

 カラヤンは残念な事にこの交響曲の録音を残していません。

 交響曲第00番所有ディスク



  *エリアフ・インバル指揮、フランクフルト放送交響楽団

          1992.5.アルテ・オーパー、フランクフルト

        CD:TELDEC,WPCS-6039



  *ゲオルク・ティントナー指揮、ロイヤル・スコティッシュ国立管弦楽団

          1998.9.

        CD:NAXOS,8.554432

     **この資料はAntonさんに提供いただきました